たまごサンドを信頼している

そういえば、あのときもそうだった。

就職活動を一旦やめよう、と決意したのは銀座駅のホームだった。そのときわたしはアホみたいな顔でたまごサンドを食べながら、でも確かにそう思ったんだ。

このままやってても受からないし、嬉しくないな。不自然なことはやめよう。

それだけじゃなくて、たまごサンドを食べた瞬間に「あ、こうしよう」と、何か確かな気持ちが降りてきた経験が何度かある。たまごサンド、宇宙でつながってる説。

大きな決意をするときほど案外静かな気持ちで、あぁ、どんな人生も日常と地続きなんだと確認する。劇的な人生も素敵だ、その日を境に何かが変わってしまうような経験は魅力的だ、でもわたしはこの地続きの人生をとても、愛している。

 

先日、仕事で向き合っていた難しいことに対してずっと踏ん切りがつかなかったのだけど、たまごサンドを食べていると結論がすっと降りてきて、楽になった。なんとなく、肩の力が抜ける。口元のパンくずを払いながらふと、なんども食べた「タマゴパン」の味を思った。そのパン屋さんはわたしの大好きな街にあって、ひとりではもちろん、家族、恋人、友達、たくさんの人と訪れた。

光の入る店内に座って、何度も「タマゴパン」を食べた。やさしくて穏やかで、いつも変わらない味。

その、家庭的で普遍的なメニューを食べるという、なんてことない日常。でも、そういう日々にこそわたしはなにかを小さく決意して、人生を進めてきたのではないか。

豪華なディナーじゃなくて、日常の中にあるタマゴサンドを信頼してる。わたしのとっておきのメニュー。